第4回:高待遇でも人が来ない、来ても辞める

賃上げしても「採用が厳しい」が解消しない理由

8割が上げて、8割が苦しむ

この数字の組み合わせは、冷静に考えると不思議です。

中途採用者の賃金を上げた企業は約8割。採用が「厳しかった」と感じた企業も約8割。つまり、お金を出しても状況はほとんど改善していない。

あなたの会社でも、思い切って給与テーブルを見直した。あるいは採用予算を増やした。それでも応募が増えなかった。もしそんな経験があるなら、それは給与の問題ではない可能性が高いのです。

報酬ではなく「スキルの不在」が壁になっている

前回、求人要件がこの5年で大きく変化していることを見ました。求められるスキルが「単機能」から「複合」へ、「作業レベル」から「思考レベル」へとシフトしている。

この変化に対応できる人材は、そもそも市場にほとんどいません。いないものは、いくら高い報酬を提示しても採れない。これが「8割が上げて、8割が苦しむ」の構造です。

ハイクラス領域でも同じ現象が起きています。外資IT、コンサルティングファーム、ネット広告といった業界では、2024年から2025年にかけて「本当に必要なポジションだけ採る」という姿勢が強まっています。年収を積んで広く募集するのではなく、要件を厳しくして本当にマッチする人だけを狙う方向にシフトしているのです。

つまり、市場の先端では「高待遇でたくさん採る」から「的を絞って精度を上げる」への転換がすでに始まっています。

「やっぱり離職」— 採用できても定着しない構造

39.6%の企業が経験した「やっぱり離職」

たとえ採用できたとしても、話はそこで終わりません。

マイナビの2025年版調査では、興味深い質問項目があります。「選考時に離職リスクの高さを懸念しつつ採用したが、やはり離職となってしまったケース」——いわゆる「やっぱり離職」の経験があるかどうか。

結果は、39.6%の企業が「経験あり」と回答しています。10社中4社が、採用時に「この人、大丈夫かな」と不安を感じながらも採用し、やはり辞められてしまった経験を持っている。

そしてその要因のトップは「仕事内容のミスマッチ」24.5%。次いで「社風・仕事文化とのミスマッチ」18.7%、「上司との相性が合わなかった」18.4%。

注目すべきは、上位3つのうち2つが「ミスマッチ」であるという点。給与や労働条件への不満ではなく、「思っていた仕事と違った」「会社の雰囲気に合わなかった」で辞めている。

あなたの会社でも、採用した人が半年や1年で辞めていった場面を思い出してみてください。その人は、給与に不満があったのでしょうか。それとも、仕事の中身や会社の雰囲気に馴染めなかったのでしょうか。

早期離職57%の衝撃 — 半数以上の企業が半年以内に人を失っている

もうひとつ、衝撃的なデータがあります。

エン・ジャパンが2025年に発表した調査によると、直近3年間で「半年以内の早期離職」があった企業は57%。大企業では7割以上が該当しています。

別の調査では、企業が「早期離職」だと感じる勤続年数の平均は9.5カ月以内でした。また、転職経験者のうち4割以上が3年未満での退職を経験しており、短期での離職が常態化しつつある状況がうかがえます。

あなたの会社で、650万円の採用コストをかけて入社した人が9カ月で辞める。売上100億円規模の会社であっても、これが2回、3回と繰り返されれば、無視できない金額になります。

なぜ「妥協採用」が起きるのか

「やっぱり離職」の背景にあるのは、妥協採用です。

求めていたスキルレベルや条件には合わないが、人柄が良いから採用する。あるいは、採用目標の人数を充足させるプレッシャーから、「この人で行くしかないか」と踏み切る。

気持ちはよくわかります。ポジションが空いたまま放置すれば、現場の負荷が上がる。「この人で何とかなるかもしれない」と期待したくなるのは、経営として自然な判断です。

しかし、スキルのズレを抱えたまま入社した人が、現場で苦しむのも事実。期待通りの成果が出ない。本人も「思っていた仕事と違う」と感じ始める。そしてやがて退職届が出る。

【経験談挿入ポイント】妥協採用→離職の具体的な場面

お金で解決できる問題と、できない問題

報酬で解決できるのは「条件で迷っている人」だけ

報酬を上げることが完全に無意味だと言いたいのではありません。

すでに必要なスキルを持っていて、条件面で競合他社と迷っている人。この層には、賃上げは有効な打ち手です。「あとちょっと給料が高ければ、こちらに決める」という状態の人を、報酬で引き寄せることはできます。

しかし、問題はその手前にあります。そもそもスキルを持つ人が市場にいない場合、報酬をいくら積んでも応募者の質は変わりません。いない人の給料を上げても、応募は来ない。

ここを見誤ると、採用予算だけが膨らみ続けることになります。

この負のスパイラルを止めるには

ここまでの議論を整理すると、ひとつの悪循環が見えてきます。

採用コストを増やす。しかしスキルが合う人が市場にいない。やむなくスキル要件を下げて妥協採用する。入社後にミスマッチが表面化する。早期離職が起きる。またポジションが空く。また採用コストが発生する。

このスパイラルを止めるには、「もっと採用を強化する」ではなく、ミスマッチの構造そのものに手を打つ必要があります。

では、ミスマッチの構造とは具体的にどういうものなのか。ホワイトカラーの現場とブルーカラーの現場で、それぞれ何が起きているのか。次の2回で掘り下げていきます。

報酬は「打ち手のひとつ」であって「唯一の答え」ではない

報酬を上げても人が来ない。来ても辞める。この現実は、問題の本質が「待遇」ではなく「スキルの構造的なズレ」にあることを教えてくれています。

もちろん、適正な報酬を払うことは大前提です。しかしそれだけでは、構造的なミスマッチは解消しません。

では、何が本当の壁なのか。次回はDX・AIの進展によって、ホワイトカラーの仕事がどう変わり、どんな断層が生まれているかを見ていきます。あなたの会社のオフィスで起きている変化を、一緒に整理していきましょう。

あなたの会社の採用費用は、正しい問題に使われていますか? 一緒に見直していきましょう。

よくある質問

Q. 給料を上げても採用がうまくいかないのはなぜですか?

問題の本質が報酬ではなくスキルのミスマッチにあるからです。中途採用者の賃金を上げた企業は約8割にのぼりますが、採用の手応えを「厳しかった」と答えた企業も同じく約8割です。求めるスキルを持つ人材が市場にそもそも少ないため、報酬を上げても応募者層は変わりません。

Q. 「やっぱり離職」とは何ですか?

選考時に離職リスクの高さを懸念しながらも採用し、結局離職に至ってしまうケースのことです。マイナビの2025年版調査によると、39.6%の企業がこの経験を持っています。要因の1位は「仕事内容のミスマッチ」24.5%で、採用の妥協がそのまま離職に直結している構造です。

Q. 中途採用の早期離職はどれくらい発生していますか?

エン・ジャパンの2025年調査では、直近3年で半年以内の早期離職があった企業は57%にのぼります。大企業では7割以上が該当しています。企業が早期離職と考える勤続年数の平均は9.5カ月以内であり、転職経験者の4割以上が3年未満で退職を経験しています。採用コストの回収が困難な状況が広がっています。

Q. 中途採用にかかるコストの相場はいくらですか?

マイナビの2025年版調査によると、中途採用の費用総額は1社あたり平均650.6万円で、前年より20.4万円増加しています。このコストをかけて採用した人材が早期に離職すると、投資が回収できないまま再び採用コストが発生する負のスパイラルに陥ります。