第3回:求人要件はこう変わった — データで追う5年間

求人の「中身」が変わっている

5年前の求人票と今の求人票を並べてみる

2020年の時点では、事務系の求人要件に並んでいた言葉はこんな感じでした。「Excel操作ができる方」「電話応対の経験がある方」「基本的なPC操作が可能な方」。

それが2025年になると、同じ事務系のポジションでも求められる内容がまるで変わっています。「BIツール(データを視覚的に分析するためのソフト)を活用した業務報告ができる方」「GA4(Googleのアクセス解析ツール)のデータを読んで改善提案ができる方」「業務プロセスの課題を発見し、改善策を立案できる方」。

つまり、「決められた作業を正確にこなす人」から「データを読んで自分で考えられる人」へ、求められるスキルの質が根本から変わっているのです。

doda転職マーケットレポート(2025年1月)によれば、ITエンジニア系の求人数は増加基調が続いています。マイナビの調査でも、DX関連の専門職分野は、企業が前年より積極的に採用したいと答えた分野の中でトップの17.1%を占めました。

出典:doda「転職マーケットレポート」(2025年1月)、株式会社マイナビ「中途採用状況調査2025年版(2024年実績)」

あなたの会社の求人票を、3年前のものと見比べてみてください。書いてある言葉が変わっていないなら、それ自体が問題のサインかもしれません。

求めるスキルが「単機能」から「複合」へ

変化はもうひとつあります。求められるスキルが「ひとつ」から「組み合わせ」に変わっていることです。

以前なら「デザインができる人」「コードが書ける人」「数字に強い人」と、ひとつの能力で求人が成り立っていました。しかし最近の求人を見ると、「デザインができて、かつデータ分析もできて、さらにクライアントへの提案もできる人」のように、複数のスキルを同時に求めるケースが増えています。

これは「スーパーマン求人」とも呼ばれる現象です。1人にあれもこれも求めるから、当然ながらマッチする人はほとんど見つからない。

【経験談挿入ポイント】複合スキルを求める求人の具体例

このスキル要件の複合化は、採用の難易度を一段も二段も引き上げています。

職種別の有効求人倍率が映す「二極化」

倍率が跳ね上がっている職種

職種別の有効求人倍率を時系列で追うと、ある傾向が鮮明に見えてきます。

建築・土木・測量技術者の倍率は、2022年度に6.53倍、2023年度に6.61倍、2024年度に6.71倍と、年を追うごとに上昇し続けています。介護サービス職は3.59倍(2024年度)。いずれも「求人を出しても人がまったく足りない」状態が、何年も続いているのです。

あなたの会社で技術職を10人採ろうとすると、統計上は1〜2人しか見つからない計算になります。残りの8〜9人分のポジションは、いくら待っても埋まらない。

出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」職業別労働市場関係指標(2022年度〜2024年度実数)

倍率が低いまま推移している職種

一方、一般事務は0.34倍のまま(2026年2月時点)。応募は来ます。しかし、先ほど見たように企業が求めるスキルレベルが上がっているため、「応募は来るが、求める能力に達していない」というミスマッチが起きやすい。

面接をしてみて「ちょっと違うな」と感じる。あるいは採用してみたものの、現場で期待通りの成果が出ない。このパターンに心当たりがあるなら、それは「応募者が足りない」のではなく「スキルが合っていない」ことが原因である可能性が高いでしょう。

この格差は縮まるのか、広がるのか

現時点のデータを見る限り、この格差は拡大傾向にあると考えられます。

DX・AI化が進むほど、高度な専門スキルを求める求人は増え、定型業務中心の求人は減っていく。転職市場は「専門スキルを持つ人材と、そうでない人材との間で格差が拡大する二極化の時代」に入っていると指摘されています。

つまり、今あなたの会社が感じている「欲しい人が来ない」という問題は、このままの構造が続けば、来年はさらに深刻になる可能性があります。DX・AI化が加速するほど、この傾向は強まっていくと考えられます。

「未経験歓迎」の急増が意味すること

未経験歓迎求人が55%から80%に急増した裏側

第1回でも触れましたが、もう少し深く掘り下げます。

エン転職に掲載された求人のうち「未経験者歓迎」の割合は、2020年の55%から2023年には約80%にまで急増しました。この数字は「企業が幅広い人材を受け入れるようになった」という美しいストーリーにも読めます。

しかし裏を返せば、「経験者だけを狙っていたら、いつまで経っても人が採れない」という現実の表れです。即戦力として機能する経験者の数はそもそも限られている。その限られたパイを多くの企業が奪い合っている。だから、「経験がなくても来てくれるなら」と間口を広げざるを得ない。

中途採用で必要な人数を確保できた企業は、全体の40.3%にとどまっています(マイナビ 2025年版調査、2024年実績)。つまり約6割の企業が、計画通りの人数を採りきれていないのです。

出典:エン・ジャパン「エン転職」掲載求人データ(2020年〜2023年)、株式会社マイナビ「中途採用状況調査2025年版(2024年実績)」

妥協採用が生む次の問題

未経験者を歓迎すること自体は、悪いことではありません。しかし、採用目標の人数を充足させることを優先するあまり、スキル要件を大きく下げてしまうと、入社後に別の問題が生まれます。

即戦力ではない人を採用する。しかし育成に十分な投資をしない。結果として、現場で期待通りの成果が出ない。本人もギャップを感じて、やがて離職する。そしてまた採用コストが発生する。

この悪循環について、次回詳しくデータで検証します。「報酬を上げれば解決するのでは?」——きっとそう思いますよね。次回はこのシンプルな疑問に、正面から答えます。

あなたの会社の求人票は、今の市場に合っているか

求人要件はこの5年で大きく変わりました。求められるスキルは単機能から複合へ、作業レベルから思考レベルへ、確実にシフトしています。

しかし、働き手のスキルセットは同じスピードでは変わっていません。だからミスマッチが起きる。だから「人手不足」に見える。

もしあなたの会社の求人票が3年前と同じ内容なら、まずはそこから見直してみる価値があります。市場が変わったのに、求人票が変わっていなければ、ズレが生じるのは当然のことです。

次回は「では、給料を上げれば解決するのか」という問いに、データで答えます。結論を先に言えば、報酬だけでは解決しません。その理由を、次回一緒に確認していきましょう。

まずはあなたの会社の求人票を3年前のものと見比べるところから始めてみてください。

よくある質問

Q. 求人要件はこの5年でどう変わりましたか?

単一スキルの求人から複合スキルの求人へと大きく変化しています。たとえば事務系では「Excel操作」だけで成立していた求人が「BIツール活用+データ分析+業務改善提案」を求める内容に変わっています。IT・AIエンジニアの求人数は増加基調が続いており、採用競争が激化しています。

Q. IT人材の求人倍率はどれくらい高いですか?

マイナビの調査では、ITエンジニアは3年連続で正社員人材の不足感が最も高い職種となっています。DX関連の専門職は企業の採用意欲がもっとも高い分野であり、採用競争は激化の一途です。

Q. 求人の二極化とは何ですか?

高度な専門スキルを求める求人の倍率が上昇する一方で、定型業務中心の求人の倍率は低いままという二極化のことです。建築技術者6.71倍(2024年度)に対し一般事務0.34倍(2026年2月)という落差が、この二極化を端的に示しています。DX・AI化が進むほど、この格差はさらに拡大する可能性が指摘されています。

Q. 自社の求人票が古いかどうかはどう判断できますか?

3年前の求人票と今の求人票を比較してみてください。記載しているスキル要件が変わっていなければ、市場の変化についていけていない可能性があります。特に「データ分析」「AI活用」「業務改善提案」といったキーワードが含まれていない場合は、見直しを検討する時期です。