リスキリングの「掛け声」と「現実」のギャップ
取り組んでいる企業は、たったの8.9%
帝国データバンクが2024年に実施した調査の結果は、なかなか衝撃的です。
リスキリングに「取り組んでいる」と答えた企業は、全体のわずか8.9%。一方、「取り組んでいない」は46.1%。「今後取り組みたい」を加えた「積極的」な企業をすべて合わせても26.1%にとどまりました。
100社集めて、実際に動いているのは9社だけ。あなたの取引先10社を思い浮かべてみてください。そのうちリスキリングに本気で取り組んでいる会社は、おそらく1社あるかないかです。
「言葉も知らない」10.1%の意味
さらに驚くのは、「リスキリングの意味を理解できない」が9.5%、「言葉も知らない」が10.1%にのぼっていることです。合わせて約2割の企業が、リスキリングという概念そのものに触れていない。
政府は「人への投資」として5年間で1兆円規模のリスキリング支援を打ち出しています。ニュースでもビジネス誌でも、リスキリングは大きく取り上げられている。しかし現場の実態は、まだそこまで届いていません。
政策の世界と、経営の現場。この距離感を知っておくことは、あなた自身の判断にも役立つはずです。
大企業と中小企業の断絶
規模によっても取り組み率はまったく違います。
大企業では15.1%がリスキリングに取り組んでいるのに対し、中小企業は7.7%、小規模企業は6.0%。売上100億円規模の企業は中堅〜大企業に位置しますが、それでも取り組み率は2割に届かないのが現状です。
【経験談挿入ポイント】規模による取り組み格差の具体例
なぜ企業はリスキリングに踏み切れないのか
課題の1位は「時間がない」
「やりたくない」のではなく「やれない」。多くの企業の本音はここにあります。
課題として最も多く挙がったのが「対応する時間が確保できない」42.1%。次いで「対応できる人材がいない」38.9%、「必要なスキルやノウハウがない」30.9%。
日常の業務を回すだけで手一杯。研修のために現場から人を抜く余裕がない。忙しいからスキルアップの時間が取れない。でもスキルが上がらないから忙しいままになる。
この堂々巡りに、あなたの会社もはまっていませんか?
「何を学ばせればいいかわからない」という正直な悩み
3番目に多かった課題「必要なスキルやノウハウがない」30.9%は、実はとても正直な声です。
「DXを進めるためにリスキリングが必要です」と言われても、「では具体的に何のスキルを身につければいいのか」がわからない。研修メニューを前にしても、自社に本当に必要なものを選べない。
これは人事部門の怠慢ではありません。事業戦略とスキル戦略が紐づいていないことの表れです。「何を学ばせるか」を決めるには、まず「事業をどう変えたいか」が明確になっている必要がある。その順序が逆になっているから、動けないのです。
助成金があっても動けない理由
政府の支援は拡大しています。しかし、リスキリングの取り組み内容として「給付金・助成金の申請・受給」を挙げた企業は17.5%にとどまりました。
制度は整いつつある。しかし申請の手間がかかる。成果をどう測定すればいいかもわからない。そもそも制度の存在を知らない企業も少なくない。
助成金は使える。でも使いこなすにも人手がいる。その人手がないから困っているのに、という話です。
リスキリングは「福利厚生」ではなく「経営戦略」
8.9%の企業は何をしているのか
では、実際に動いている8.9%の企業は、何から手をつけているのでしょうか。
取り組み内容のトップは「従業員のスキルの把握、可視化」52.1%でした。いきなり研修プログラムに飛びつくのではなく、まず「うちの社員は何ができて、何ができないのか」を棚卸しすることから始めている。
この順序は理にかなっています。病院に行く前に症状を把握するのと同じ。処方箋を出す前に、まず診断が必要です。
「やるかやらないか」の前に「何のためにやるか」
リスキリングが進まない根本的な原因は、手段(研修)の議論から入ってしまうことです。
「どの研修サービスを使うか」「eラーニングの導入コストはいくらか」「何人に受けさせるか」——こうした議論が先に立つから、目的が曖昧なまま走り出してしまう。あるいは、目的が見えないから走り出せない。
本来の順序はこうです。「事業をどう変えたいか」→「そのために何のスキルが必要か」→「だから何を学ばせるか」。
この順序を正すのは人事部門の仕事ではありません。経営者の仕事です。事業の方向性を決められるのは、経営者だけだからです。
経営者が口にしにくい「もうひとつの本音」
リスキリングが進まない理由として、時間がない、人がいない、ノウハウがない、という3つの壁を見てきました。
しかしもうひとつ、経営者が口にしにくい本音があります。
「社員を育てても、スキルが上がった途端に転職されるのではないか」
この恐怖は、経営者なら誰しも感じるものです。次回はこの恐怖を正面から検証します。データは「育てたから辞める」のか、それとも「育てないから辞める」のか。答えは、あなたの想像とは少し違うかもしれません。
まずは「自社に何のスキルが必要か」を、経営者自身の言葉で定義するところから始めてみてください。
よくある質問
Q. 日本企業のリスキリングの取り組み状況はどうなっていますか?
帝国データバンクの2024年調査によると、リスキリングに「取り組んでいる」企業はわずか8.9%です。「取り組んでいない」が46.1%、「言葉も知らない」が10.1%にのぼり、政府の支援拡大にもかかわらず、現場への浸透は不十分な状況です。
Q. 企業がリスキリングに取り組めない理由は何ですか?
帝国データバンクの同調査では、課題の1位が「対応する時間が確保できない」42.1%、2位が「対応できる人材がいない」38.9%、3位が「必要なスキルやノウハウがない」30.9%でした。日常業務で手一杯の中、研修のために人を抜く余裕がないことが最大の障壁です。
Q. 大企業と中小企業でリスキリングの取り組みに差はありますか?
大きな差があります。大企業では15.1%が取り組んでいるのに対し、中小企業は7.7%、小規模企業は6.0%にとどまります。リソースの差がそのまま取り組み率の差に表れており、中小企業ほどリスキリング推進のハードルが高い状況です。
Q. リスキリングの助成金は活用されていますか?
あまり活用されていません。リスキリングの取り組み内容のうち「給付金・助成金の申請・受給」は17.5%にとどまっています。制度は整いつつあるものの、申請の手間や成果測定の難しさ、そもそも情報が届いていないことが利用率の低さにつながっています。