「体力勝負だから人が来ない」は本当か
これらの業界の求人倍率はなぜ高いのか
建築・土木・測量技術者の有効求人倍率は6.71倍(2024年度)。介護サービス職は3.59倍(同)。サービス職全体でも平均2.68倍。
中途採用で必要な人数を確保できた企業は、全体の40.3%にとどまっています(マイナビ 2025年版調査、2024年実績)。特にマイナス幅が大きかったのは、飲食店・宿泊業、建設業、運輸業でした。
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」職業別労働市場関係指標(2024年度実数)、株式会社マイナビ「中途採用状況調査2025年版(2024年実績)」
建設で10人募集して見つかるのは1〜2人。介護で10人募集して見つかるのは3人。この数字は、何年たっても大きくは改善していません。
賃上げは進んでいる。それでも来ない
「待遇が悪いから人が来ないんだろう」——そう思う方もいるかもしれません。しかし、状況は変わりつつあります。
運輸・物流・倉庫業界では、「前年より10%以上の水準で賃金を上げる予定」の企業が多いことが報告されています。建設業でも介護業でも、政策的な処遇改善が進んでいます。
それでも充足率は大きくは改善していない。
第4回で検証した「報酬を上げても採用が改善しない」構造が、ここでも再現されています。お金の問題だけではない、ということです。
「3K」では説明しきれない構造
「きつい・汚い・危険」——いわゆる3K。これが人材不足の原因だとよく言われます。
確かに、労働環境の厳しさはひとつの要因です。しかし、現場の環境改善も進んでいます。建設現場のICT化。介護ロボットの導入。物流の自動仕分けシステム。3Kの「K」は、少しずつ軽減されつつある。
にもかかわらず、人が集まらない。環境が改善されても、賃金が上がっても、人が来ない。
ここには、環境や待遇だけでは説明しきれない要因がある。次のセクションで、その正体に迫ります。
これらの業界に共通する「見えにくい価値」
サービスの付加価値はどこから生まれているか
建設、介護、物流、飲食。業界はバラバラに見えますが、ひとつの共通点があります。
建設。図面通りに建てるだけなら、いずれ機械でもできるようになるかもしれません。しかし、現場で「ここは施主の意図とズレている」と気づき、調整を入れる。近隣住民への配慮を判断する。これは人にしかできません。
介護。食事・入浴・排泄の介助は、マニュアル化できる部分もあります。しかし「今日はいつもより表情が暗いな」と気づき、声をかける。その一言で入居者の顔が明るくなる。これは人にしかできません。
物流。仕分けや配送ルートの最適化はAIが得意です。しかし、届け先で「いつもありがとうございます」と声をかける。荷物の置き方ひとつに気を配る。これは人にしかできません。
飲食。料理のレシピはデータ化できます。しかし、常連客の好みを覚えていて「今日はいつものでいいですか?」と聞ける。その気配りで「また来よう」と思ってもらえる。これは人にしかできません。
これらの業界に共通しているのは、「人が関わることで初めて生まれる価値」の比率が高いということです。
「人がやること」と「人がやるから価値が出ること」の違い
ここで区別しておきたいことがあります。
「人がやっている仕事」と「人がやるからこそ価値が生まれる仕事」は、同じではありません。
人がやっている仕事のうち、定型的な作業は技術の進化で機械やAIに置き換えられる可能性があります。しかし、人がやるからこそサービスを受ける側に安心感や満足感が生まれる仕事は、置き換えられません。
この区別ができていないことが、これらの業界の人材戦略を狂わせている一因ではないでしょうか。
【経験談挿入ポイント】「人がやるから価値が出る」場面の具体例
なぜこの価値が求人や採用に反映されないのか
仕事の魅力が「作業内容」でしか語られていない
これらの業界の求人票を見ると、書いてあるのは「介護業務全般」「施工管理業務」「配送業務」「調理・接客業務」。
間違ってはいません。しかし、これでは仕事の「作業面」しか伝わらない。
本当の仕事の価値——人に安心を届ける、街の景色をつくる、暮らしを支える、食卓に笑顔を生む——は、どこにも書かれていない。
あなたの会社でも、求人票に書いてあることと、実際にその仕事で生まれている価値との間に、開きがあるのではないでしょうか。もし開きがあるなら、応募者にはその仕事の本当の魅力が伝わっていない可能性があります。
作業の対価としての給与は上がりにくい構造
もうひとつ、構造的な問題があります。
仕事を「作業」としてだけ捉えると、生産性の指標は「何件処理したか」「何棟建てたか」「何食提供したか」になります。
この指標では、人が介在することで生まれる安心感や信頼感——つまり精神的な満足は、数字として計測できません。計測できないから報酬に反映されない。報酬に反映されないから「割に合わない仕事」に見える。だから人が来ない。
この負のサイクルを断ち切るには、「人が介在することで生まれる価値」を正面から認識し、評価の仕組みに組み込む必要があります。
「人が介在する価値」を見直すことから始まる
建設、介護、物流、飲食で人が足りない理由は、単なる「体力勝負の仕事は敬遠される」ではありません。
これらの業界には、人が関わることで初めて生まれる価値があります。しかしその価値は可視化されず、求人にも報酬にも反映されていない。だから、仕事の魅力が正しく伝わらず、適正な対価も支払われない。
次回は、この「人にしか出せない価値」の正体をさらに掘り下げます。キーワードは「ホスピタリティとパフォーマンス」。この2つの力が掛け合わさることで生まれる「精神的満足」が、なぜAIやロボットでは代替できないのか。一緒に考えていきましょう。
あなたの会社の求人票は、仕事の「作業面」だけでなく「価値」を伝えていますか?
よくある質問
Q. 建設・介護・物流・飲食で人が足りないのはなぜですか?
「体力勝負だから」「3Kだから」だけでは説明できません。これらの業界では賃上げも労働環境の改善も進んでいます。それでも人が集まらない根本的な理由は、人が関わることで初めて生まれるサービスの価値が正しく認識されず、求人や報酬に反映されていないことにあります。
Q. 介護業界の人手不足はどれくらい深刻ですか?
介護サービス職の有効求人倍率は3.59倍で、サービス職全体の平均2.68倍を大きく上回っています。中途採用で必要人数を確保できた企業は40.3%にとどまり、特に飲食店・宿泊業、建設業、運輸業で採用充足率のマイナス幅が大きくなっています。
Q. 建設・介護・物流・飲食に共通する特徴は何ですか?
いずれも、サービスの付加価値の中に「人が介在することで初めて生まれる精神的満足」が大きな比率を占めている点です。正確な施工だけでなく施主の意図を汲む配慮、介助だけでなく入居者の尊厳を守る気配り、配送だけでなく届け先での丁寧な対応、といった人にしか提供できない価値があります。
Q. 建設・介護・物流・飲食の求人票にはどんな問題がありますか?
仕事の魅力が「作業内容」でしか語られていないことが問題です。「介護業務全般」「施工管理」「配送業務」と書かれた求人票からは、人に安心を届ける、街の景色をつくる、暮らしを支えるという本当の仕事の価値が伝わりません。
著者プロフィール
町島 和徳(ギャラクティックブレーン合同会社 代表社員)
電気通信大学在学中からコンテンツ制作の現場でキャリアをスタート。エンタメ業界での経営実務を経て、現在はコンサルタント兼フルスタックエンジニアとして活躍。経営・マーケティング・技術の複眼的視点と、部門や階層を超えたファシリテーション力を強みに、スタートアップから大手企業まで幅広いDX支援を手がける。生成AI・RPAの実務活用を精力的に展開。成功・失敗双方の実践知を惜しまず発信する現場主義のプロフェッショナル。