「動いている。でも何かが引っかかる」という感覚
AIに書かせたコードが、動いている。でも、何かが引っかかる——そんな感覚を、あなたは最近抱いていないでしょうか。
速く作れるようになった。開発コストも下がった。それなのに、どこか腑に落ちない。障害対応が重くなった気がする。レビューで拾えるものが減った気がする。気のせいでしょうか。
気のせいではない、というのが私の結論です。私たちが長年使ってきた「品質担保」という考え方の前提そのものが、AI駆動開発によっていくつも揺らいでいる。そう感じ始めたのが、この連載を書き始めた動機です。
退いた者が、もう一度呼ばれるとき
スタートレックの主人公ジャン=リュック・ピカードは、かつて宇宙艦の艦長として名を馳せた人物。物語が始まる時点では引退してワイナリーで静かに暮らしています。ところがある出来事をきっかけに、彼はもう一度、世界に呼び戻されていく。
「古い人がもう一度呼ばれる」という構造。彼が呼ばれたのは、若い頃の栄光を再現するためではありません。時代が新しい難題に直面したとき、問いを立て直せる人が必要になったからです。
AI駆動開発の現場も同じ構造を持っています。「何を信じていいのか」「どこまで任せていいのか」——こうした問いに向き合うには、古い知の側から問い直す作業が要ります。
揺らいだ3つの前提
前提1:コードは「書く」ものだった——AI時代には、コードは「書かれる」よりも「生成される」ものになります。意図はプロンプトに宿り、コードは生成の結果として現れる。書き手と成果物の間に、一段のレイヤーが挟まったのです。
前提2:レビューは「読めばわかる」ものだった——生成されたコードはたいてい動きます。細かいミスも少ない。でも「なぜこの実装にしたのか」「なぜこのライブラリを選んだのか」という判断の根拠が見えにくくなります。
前提3:テストは「書けば足りる」ものだった——AIが生成したコードをAIにテストさせると、そのテストは「通るように」設計されがちです。テストの独立性が、AIの導入によって危うくなります。
答えは「品質四象限」にある
この3つの揺らぎに、どう向き合えばいいか。私が到達した答えが、本連載の背骨となる「品質四象限」というフレームワークです。
- 象限①:要件定義の精緻化(何を作るかの解像度)
- 象限②:テスト駆動での設計(何が正しいかの定義)
- 象限③:プロンプトによるAIコントロール(AIをどう動かすか)
- 象限④:工程設計(いつ・どう進めるか)
4つの象限は独立した項目ではなく、お互いを支え合いながらAI時代の品質を四方から守る仕組みです。どこか一つが欠けると、残り3つも連動して弱くなります。
この連載で扱わないもの
本連載では、以下を意図的に扱わないと最初に宣言しておきます。専門家としての線引きを明示するためです。
- ROI計算・投資対効果論
- 契約・法務・知財論
- 採用・HR論
これらは別軸で論じるべき重要テーマですが、1本の連載ですべてを語るとどの主張もぼやけます。今回は品質担保という柱に集中します。
もし、この記事を読みながら「うちにも思い当たるふしがある」と感じた瞬間があったなら。それはおそらく、品質四象限のどこかがすでに揺らいでいるサインです。どこが揺らいでいるのか——ここから14回かけて、一緒に言葉にしていきましょう。
著者プロフィール
町島 和徳(ギャラクティックブレーン合同会社 代表社員)
電気通信大学在学中からコンテンツ制作の現場でキャリアをスタート。エンタメ業界での経営実務を経て、現在はコンサルタント兼フルスタックエンジニアとして活躍。経営・マーケティング・技術の複眼的視点と、部門や階層を超えたファシリテーション力を強みに、スタートアップから大手企業まで幅広いDX支援を手がける。生成AI・RPAの実務活用を精力的に展開。成功・失敗双方の実践知を惜しまず発信する現場主義のプロフェッショナル。